『マネログ』 ポジティブな書評

本が読みたくなるブログを目指して

ピンボールおじさんの話

以前、僕の親父からきいた話なんだけど

 

実家の近くに住んでる、とあるおじさんの散歩コースは決まっていて

ご近所さんによると、その道に現れる時間も決まっているらしい。

 

とてものんびり歩いているのだけれど、ふとした時に、せかせかと道を

横断して、またのんびり歩く。

そして何かの拍子にまた勢いよく動き出して、止まって、

そしてフラフラ歩き出す。

左に歩き始めたと思ったら振り向いて、どこかを眺めながら今度は右へ。

また左に行くと見せかけて、やっぱり左へ、そして右へ。

 

ピンボール台の中で不規則に動く玉のように

おじさんが一本道の空間を広く使いながら、緩急をつけてはねる。

 

通行人は驚くわ、車には迷惑だわ、ていうかまずいろいろ危ないわ。

 

そうしておじさんは立ち止まる時にだけ、ポケットに突っ込んでいた手を

出して、歩き出す時にまたしまう。

 

手に握られているのはハサミである。

いよいよ危ない。

 

 

実は、というかやはり、このハサミは剪定バサミである。

おじさんは自分の散歩コースにある、植木や花壇、鉢なんかの

植物を、自分の美しいと思う形に剪定しながら歩いているのである。

 

植物の剪定とは、見た目の美しさのためだけでなく、枝に効率よく

養分を行き渡らせて、成長を促す効果もあるそうだが、

このおじさんがそこまで考えているかは謎である、いやむしろ明確かも。

 

そして当然のことながら、植木や花壇は、おじさんのものではなく、

その家の人のものである。

公園の植木程度ならまだしも(本当は市町村のものなんだろうけど)

人の家の木を勝手に切断して歩いているのはかなり思い切っている。

 

この話を聞いた時、まず疑問が浮かんで、

それは、町内の人はどう思ってんだろうっていうことなんだけど

自分も町内の人だったって気づいた途端に

とてもステキなおっさんに思えてきた。

 

そのおじさんは、僕の住む町内を、自分の好きな見え方で

観ることがで切るのである。

人に迷惑とか、誰かが困るとか、考えるのは当事者に任せればいい。

 

おじさんは今日も散歩をする。

 

そんな話。