『マネログ』 ポジティブな書評

本が読みたくなるブログを目指して

さらりとした文体が、死に向かう「生」を浮き彫りにする。『夏の流れ』

今回は丸山健二さんの芥川賞受賞作、『夏の流れ』を紹介します。

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丸山健二さんはその後、様々な手法を用いて実験的小説を書いています。

登場人物をとある俳優に指定したり、

千日の日記を千種の視点から描いたり、

僕たちが物語に入り込む準備をまだ整えていない段階から、いきなり仕掛けてきます。面白いですね。

この「夏の流れ」は初期の作品です。

芥川賞受賞時、若干23歳。おふ、若っww

綿矢りささん(受賞時19歳)に破られる前は丸山さんが最年少記録です。

 

今回も作品に漂う雰囲気に着目して紹介したいと思います。

 

テンポが崩れずに、淡々と、簡潔に綴られる。死刑囚と刑務官の日々。 

 刑務官として働いている主人公は、毎日のように刑務所に出勤し、

死刑囚達を見張ります。

時に、死刑を前にした囚人と争うようなこともある。

どうしたって死のはびこる場所。

生にしがみつく醜さ。

 

そんな職場から帰れば、主人公を家庭が出迎える。

元気な子供達、

気を使ってくれるたくましい妻、

そして、生まれてくる、新しい家族。

 

 

オフの方は生まれるのね( ^ω^ )

 

そんな、刑務所の非日常と、平穏な日常の対比。

いわば生と死の対比。

 

 

けれどもすごい。

この作品の不思議なところは、こんなにも、主人公の感情が

揺さぶられそうな舞台であるにもかかわらず、

おかしいなと思うほど清洌な読書感が味わえるところ。

 

その理由の一つは紛れもなく、硬質で簡潔な文体。

自らその立場にあったなら、どうかなってしまいそうな状況を

さらり、さらりと、書き綴る。

不要なえぐい表現は削がれて、それでいてリアル。

そのなんとも言えないあっさりさというか、あっけなさみたいな感じが

不思議と心地いい。

 

おかげでなのか、僕たち読者は、

一つひとつの生の大きさを、主人公の感情を通して理解しつつも

生と死の、全体の流れとして

物語を、なにか俯瞰的に、楽しむことができる。

 

それが一人称の作品でもです。

 

個人的には避暑地とかで読むと清々しくてなかなか良さそうw

秋の涼しい時期も良さそうですね。 

 

『夏の流れ』の雰囲気について書きました。

本を手に取るきっかけになってくれたら幸いです。

 

ではでは〜