休日の、お昼どきの、埼京線の話
わりと満員の埼京線に乗ったら、座席を一列使って寝てる人がいた。
はじめ見た時は、その上に座ってしまいそうになってビックリしたんだけど
すぐ後に、周りに立っている人たちが、そろって背を向けていることに気が
ついて、なんだか悲しい気分になってしまった。
その金髪の青年が、靴を脱いで、行儀よく寝ていたから、起こしてはかわいそうと思ったのかもしれない。
もしかしたらブラック企業に勤めているかもしれない彼の、三日ぶりの睡眠を邪魔してはいけないと思ったのかもしれない。
身内に不幸があったのかもしれない。
そんな風に彼を寝かせてあげる解釈を自分で作り出すことは、優しいことだなって思うし、心の広さも感じる。
けれども周りの背中達は、関わらないように必死な雰囲気が隠しきれていない。
わかっている。
面倒に関わりたくない。
これから大事な仕事がある。トラブルで遅れたりしたら大変だ。
子供を連れてそんなことできるわけない、子供にもしものことがあったら。
酔っ払ってそうだから、吐かれたらたまんない、他の人にも迷惑かけるし。
自分は他人なんて関係なく、今までもそうしてきた。
殴られるかもしれない。
俺もよく寝る。意外と誰もなんも言わねーからウケる。
彼女の前でそんなことできない、一人だったら注意するかも。
こんな車内でそんなことは恥ずかしい、キャラじゃない。
自分にトクがない。ソンするのになぜ
全部間違いじゃない。
全部が真っ当な感情で、正常で、誰もが経験していることで。
中には
注意したい。けれど、なんでか知らないけど、できない。悔しい。
っていう人もいるかもしれない。
「すみません、大丈夫ですか」
僕が声をかけたのは乗ってから一駅たったときで、考えるのがうっとうしくなったときで。
「大丈夫ですか、どうしました?」
僕の声では考えられんくらいでかい声になっちゃって、周りの人が、それこそ車両の全体から視線を感じて。
「 るせんだよ」
ってその人が言ってくれたおかげで、病人ではない対応ができると安心した。
きっと酔っているだけだ。
「迷惑なんですよ! 起きてください! 横の席、かりますね。僕、足怪我してるんで」
そのままその男の子をひざまくらして、しばらく金髪を撫でていた笑
そのとき、一人の女性が空いたところに座ってくれた。
「お兄さん、ありがとうね」って言ってくれて、
ああ、助かった、と思った。
その女性の言葉に本当に助けられた。その一言がものすごく、でかい。
こわかった。
誰でもこわいのである。
ガラなんかでいえば、それこそ僕は全然ガラじゃない。
一番助けられたのは僕で、優しいのはその女性だった。
たぶん、意識のあった金髪の青年は、どんなことを考えてたんだろう。
そんな話。